概要

 目的

先端技術イノベーションプロジェクト(第1期)で取り組んだ技術・成果を着実に移転・定着させ、支援企業が目指す新分野進出や受注拡大の安定的実現を図ることを目的に、引き続き「特殊鋼」「鋳鉄産業」を主な対象とした製品加工技術の開発支援に取り組んだ。あわせて、今期(第2期)では、新たに産学官医工連携による医療機器の開発にも着手した。

背景

難削材料の高能率加工技術開発

本県東部に集積する特殊鋼関連企業が航空機分野等への進出を目指し設立した企業グループ「SUSANOO」の事業拡大計画に伴い、当該分野の製品加工に要求される難削材料の高能率・高精度加工技術の開発ニーズは更なる高まりを見せていた。

快削性鋳鉄の実用化展開

生産量・生産額ともに全国上位を誇る本県鋳鉄産業も例外なく国際競争力強化が求められており、収益性向上や受注拡大を実現する製造コスト低減策や高付加価値化技術への開発ニーズは引き続き高い状況にあった。

医工連携による骨折治療システムの開発

島根大学医学部整形外科と共同で開発を進めてきた「骨ネジ」技術を背景に、『島根発』の新たな骨折治療技術として、超高齢化社会も見据えた治療領域の拡大とこれを実現する治療支援システム(治療機器)の開発ニーズを受けていた。

内容

難削材料の高能率加工技術開発

支援企業が当該製品分野において自立的かつ継続的な受注獲得を可能とすべく、人材育成も含めた難削材料の加工技術開発、形状品質評価技術支援を行い、その技術移転を進めた。

快削性鋳鉄の実用化展開

県(当所)が発明した特許第3707675号(加工コスト削減を可能とする快削性鋳鉄)の製品実用化・事業化に取り組み、当該材料による加工コスト低減と新規顧客の獲得を支援した。

医工連携による骨折治療システムの開発

島根大学医学部・県内外企業との産学官医工連携により、患者の負担軽減と早期治癒を促す『島根発』の新たな骨折治療システムの開発に取り組んだ。県外メーカーと県内サプライヤーとの連携(取引関係)構築も進めた。

取組

難削材料の高能率加工技術開発

難削材 加工技術開発加工工程設計から品証段階までを対象とした技術支援を展開した。ターゲット製品に対する高能率・高精度な加工技術開発を進め、これを技術移転することで、支援企業の受注開拓を促進した。さらに、製品形状評価技術の向上を図るべく技術指導を行い、これらの技術支援を主にSUSANOO企業3社を対象に実施した。

快削性鋳鉄の実用化展開

快削性鋳鉄 実用化試験特許第3707675号を技術供与し、既存または新規引き合い製品への実用化支援を展開した。自社加工品の加工コスト低減を目指す企業には、製品量産試験を通じて高能率生産体制の確立を支援した。素材販売で受注拡大を目指す企業では、顧客企業と共同で製品実用化に取り組んだ。(特許実施許諾契約:県内メーカー3社、秘密保持契約:県内メーカー5社、県外メーカー1社、県外ユーザー2社)。

医工連携による骨折治療システムの開発

「骨ネジ」に加え「骨移植」への応用(精密3D形状加工)も可能な骨折治療システムの開発と臨床研究を、産学官医工連携体制で展開した。さらに、脆弱性(骨粗鬆症骨)骨折などにも治療領域を拡大し、人工骨ネジや関連する治療器械の開発も実施した。加えて、リハビリ用装具など派生する製品開発にも取り組み、参画企業の新分野進出と新製品開発、企業間連携を支援した。

 達成状況

難削材料の高能率加工技術開発 成果事例の概要

馬潟工業(有)では、大手重工メーカーから航空機エンジン部品の受注(直接取引)に成功した。(株)ナカサでは、同時5軸加工の技術開発で顧客企業へ短納期化提案を行い、自動車量産部品の受注拡大支援に成功した。秦精工(株)は、航空機部品の受注拡大に対応すべく新工場を立地し、大規模な設備増強を行った。これら支援企業の取組により、製造出荷額増と雇用創出を実現したが、コロナ禍において特に航空機関連の需要は大幅に縮小した。

快削性鋳鉄の実用化展開 成果事例の概要

(株)ダイハツメタルでは、大手機械メーカーの産業用機械部品への実用化・量産供給を継続した。オーエム金属工業(株)では、県内ユーザー企業と共同で工作機械部品等への実用化に取り組んだ。TVC(株)では、自社製品(自動車エンジン部品)の加工コスト低減を目指し製品実用化(量産)試験を進めた。なお、本テーマも、コロナ禍による経済悪化の影響を大きく受けた。

医工連携による骨折治療システムの開発 成果事例の概要

(株)日進製作所(現:(株)日進FULFIL)の骨専用加工機を基幹とする治療支援システムで、世界初となる「清潔環境下に精密加工した骨移植術」を実現した。関連器械の開発を進める(株)吉川製作所もサプラヤー参入を開始した。また、「骨ネジ」技術を応用した新型人工骨ネジを帝人メディカルテクノロジー(株)と開発し、臨床応用・商品化に成功した。これら外科処置後のリハビリも視野に、新たな装具開発を帝人コードレ(株)および中村ブレイス(株)とスタートさせた。

骨専用加工機
新たに開発した「骨専用加工機」
人工骨ネジ
商品化に成功した「人工骨ネジ」

まとめ

自己評価

[良かった点]

  • 本県ものづくり企業の事業計画やニーズを反映したテーマならびに他地域にない本県独自技術による戦略的な取組を進めることで、支援企業の受注拡大・開拓や雇用創出を実現した。

[足りなかった点]

  • 事業化に関しては、顧客企業の状況に左右される面があった。また、期間後半は、コロナ禍による経済悪化の影響を大きく受ける結果となった。

参画企業の声

[良かった点]

  • 今日の当社があるのも当プロジェクトの支援によるところが大きく、本当に感謝している。
  • 当プロジェクトは地方企業と連携することで、地域活性に向けた取組となっている。
  • 産官学の共同研究で、新製品を開発・販売するという具体的な形(成果)を示すことができた。

[足りなかった点]

  • 支援設備をさらに充実させて頂ければ嬉しかった。