先端技術イノベーションプロジェクト(第2期)総括報告書

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令和5年7月14日

平成30年から令和4年まで取り組んだ先端技術イノベーションプロジェクト(第2期)の総括報告書です。

全体総括

 

概要

目的

県内経済が発展するためには、県外からの外貨を獲得できる産業の振興が必要であり、そのためには、企業の技術力・競争力の強化や、成長する産業・市場への進出など新事業の展開への支援が重要である。

そこで、技術革新が見込まれる先端分野や県内ものづくり産業の強みを活かしたテーマを設定して、県内企業と産業技術センターが密接に連携して研究開発に取り組むことにより、地域の所得と雇用の拡大に寄与する。

背景

プロジェクト開始当時は、国内の人口減少率が過去最大となり、国内市場が縮小する中で人手不足が深刻化するという厳しい経営環境にあった。このような厳しい状況に打ち勝ち、県内企業が所得や雇用を維持・拡大するためには、新たな製品・技術の開発や生産性向上などの体質改善が急務となっていた。

一方、県内企業の多くは中小零細企業であり、単独で研究開発に取り組むことが困難な企業が多いことから、県内企業と産業技術センターが密接に連携して迅速な研究開発や体質改善に取り組むことが求められていた。

内容

  • 事業期間:平成30年度~令和4年度
  • 研究テーマ:これまで企業と培った技術成果をさらに発展させ、売上、雇用に加え、企業の体質改善を加速させるテーマ(技術発展型・6テーマ)と企業・市場・地域性を踏まえ、新たな製品・技術の開発に取り組むテーマ(可能性探索型・3テーマ)の9つのテーマを設定
テーマ 内 容
技術発展型 切削・生産加工技術強化 航空機エンジン部品等の素材となる特殊鋼の加工技術開発、県が開発した快削性鋳鉄の製品化支援、医工連携による医療機器開発
シミュレーション・可視化技術応用 製品設計等にシミュレーション・可視化技術を活用することで、製品・技術開発力の向上を支援
AI・通信技術を用いた支援ロボット開発 AI・通信技術を用いた企業の生産性向上に資するシステムの開発
高機能センシング応用製品開発 県が開発したプリンテッドセンサー技術、バイオ技術等を応用したセンサー製品の開発
多様な形状・材料への曲面印刷技術開発 複雑な形状の電子機器の筐体等への曲面回路印刷、部品一体成型等の技術開発
生物機能応用技術開発 動物や微生物が有する機能を活用した、資源循環型環境技術及び美容・健康製品等の開発
可能性探索型 木質新機能材料開発 セルロースナノファイバーなどの新たな木質材料を活用した製品開発
生体反応活性化技術開発 廃棄されている未利用素材、県内無機素材等の生体反応を利用した新規用途開発
食品等高品質加工処理技術開発 食材の高品質化や加工工程の効率化を実現する食品加工技術の開発
  • 中間見直し:令和2年度において、事業化の可能性と効果等を検証して中間見直しを行い、可能性探索型の3テーマを廃止することとした。また、見直しに伴い目標を下方修正した。
    • 生体反応活性化技術開発プロジェクト
      研究課題を達成したため、企業主体の取組に移行(成果目標には計上)
    • 木質新機能材料開発プロジェクト
      連携企業の事業化スケジュールが先送りされ、事業期間中の成果達成が困難となったため、通常の技術支援に移行
    • 食品等高品質加工処理技術開発プロジェクト
      長期に渡る基礎研究が必要となったため、通常の技術支援に移行
  • 成果目標
    【開始時】 製造品出荷額45.6億円、雇用創出人数105人
    【見直し後】製造品出荷額37.1億円 雇用創出人数 93人
 

取組

テーマの選定

委員12人(うち外部委員10人)による選定会議(H29.10.27)によりテーマを選定した。会議では、9つのテーマを提案し、各テーマの背景、研究内容、期待される成果、実施期間中に必要な予算等について審議を行った結果、全テーマを実施することとした。

取組の進め方

本プロジェクトを進めるにあたっては、毎年度「先端技術イノベーションプロジェクト(第2期)推進・評価会議」を開催し、委員10人(うち外部委員8人)による審議を行った。会議では、プロジェクトの進捗状況について報告をし、各分野の専門家から意見を聴き、事業化に向けた研究開発の進め方を議論した。

各回の概要は以下のとおりであった。

第1回(H30.10.24)

初年度は主に今後の計画や取組を説明し、委員からよりよい進め方につながるアドバイスを受け、プロジェクトの方向性決定に役立てた。

第2回(R1.10.23)

主に各プロジェクトの進捗状況を報告するとともに研究開発方針や顕在化した課題について説明し、委員からのアドバイスを受けて今後の取組に反映させた。

第3回(R2.11.4)

プロジェクト開始から3年目の中間年となったことから、これまでの進捗状況を踏まえて今後の事業化の可能性と効果等を検証し、委員の意見を聴き中間見直しを行った。技術発展型の6つのプロジェクトは継続し、可能性探索型の3テーマを廃止することとした。

第4回(R3.11.9)

成果の状況や最終年度に向けた可能性について報告し、順調なものについては成果の拡大に必要となる施策について、見直しが必要なものは見直しの方向性について意見を聴き、今後の取組に反映させた。

第5回(R4.11.14)

プロジェクト最終年度となったことから、成果目標の達成状況や各プロジェクトの成果事例を説明し、事業化や事業拡大へ向けて取組の加速化や改善などについて意見を聴いた。また、令和5年度からの新事業について概要を説明して意見を聴き、今後の検討の方向性に反映させた。

 

達成状況

結果(H30~R4年度累計)

区分 県事業費
実績額
(百万円)
製造品出荷額(百万円) 雇用創出人数(人) 共同研究
企業等
(社)
目標 実績 達成率 目標 実績 達成率
切削・生産加工技術強化 47 500 1,350 270% 10 20 200% 20
シミュレーション・可視化技術応用 81 800 1,210 151% 15 13 87% 12
AI・通信技術を用いた支援ロボット開発 48 500 19 4% 12 0 0% 21
高機能センシング応用製品開発 85 660 50 8% 16 3 19% 4
多様な形状・材料への曲面印刷技術開発 54 550 0 0% 10 9 0% 11
生物機能応用技術開発 87 500 560 112% 20 15 75% 32
生体反応活性化技術開発 30 200 39 20% 10 1 10% 6
合  計※ 581 3,710 3,228 87% 93 52 56% 106

※県事業費実績額の合計は、知的財産経費などを含む額を記載しているため、各プロジェクトの合計額とは一致しない。
※共同研究企業等は、共同研究契約を締結するなど、連携して新製品・新技術の研究開発を行った企業

知的財産出願件数等

研究開発した技術については、類似品の参入を防止するなど県内企業の事業展開を有利にするため、積極的に権利化を行った。また、権利化した知的財産(特許権、意匠権、商標権)については、県内企業に実施許諾をすることで、企業への技術移転を行った。

※実施許諾:特許権者等が民間企業等に特許発明等の実施(製品の製造・販売等)を許諾すること。

プロジェクト期間中の出願件数(うち共同出願のもの、権利化済みのもの)、実施許諾契約件数

知的財産出願件数 うち共同出願件数 うち権利化件数 実施許諾件数
27件 17件 12件 3件
 

参画企業の声

【良かった点】

新製品の開発、新技術の導入

  • 産官学連携による共同研究によって、新製品を開発・販売するという具体的な成果を示すことができた。
  • 自社にはない機器での分析ができ、自社単独ではできない開発を進めることができた。
  • 膨大な試作時間と経費をかけることなく、有望な新商品を開発することができた。
  • これまで培った技術を基に応用開発に取り組んだことで、様々な分野に活用できる新たな可能性が広がった。

生産性の向上、社内体質の変化、人材育成

  • 今まで感覚で判断していたところを客観的な数値で把握、分析できるようになった。
  • 機械設備の状況が可視化でき、生産性の向上に取り組むことができるようになった。
  • シミュレーションを活用し、必要最低限の試作で検証することでコスト削減につながった。
  • 商品の品質管理が向上し、技術面だけでなく販売面でも大きく付加価値を付けることが出来るようになった。
  • 新しい技術を勉強する良い機会となり、社内の人材育成になった。

販路の新規開拓、社外交流の拡大

  • お客様へ数値を根拠に回答できるようになり、新規受注につなげて行けるようになった。
  • 特許を取得したことで展示会などにおいて積極的にPRができ今後の発展に大きく貢献できた。
  • 販売先が県内にはないメーカーであり、新規業界を開拓できたことは今後に繋がると思う。
  • 異業種の企業と共同で研究に取り組むことで学ぶことが多かった。
  • 展示会に参加したことで、異業種との交流が生まれ、新たな連携の可能性につながった。
  • 関係企業や関係機関との調整や交渉に積極的に関わってもらい適切な助言をもらって助かった。

取組全体に対する意見

  • 今日の当社があるのも当プロジェクトの支援によるところが大きく、本当に感謝している。
  • 自社の技術力や様々な分野での可能性を発信することができると同時に、島根県との共同開発が背景にあることが、より技術の信頼性を強調できるいい機会となった。

【足りなかった点】

技術面・体制面の課題

  • 支援設備をさらに充実させて頂ければ嬉しかった。
  • 当社は県西部にあり、松江までの距離が問題。西部での拠点の充実をお願いしたい。

進行面の課題

  • コロナ禍で関係機関のコミュニケーションがはかどらず、開発が遅れてしまった。
  • 大学等とも連携することで研究期間を短縮でき、また可能性が広がると感じた。
  • ターゲットとなる分野や業界のニーズを早い段階で開発に反映することができれば、成果の出方が違ったかもしれない。
 

全体総括

プロジェクト開始後の環境変化

プロジェクト開始時は戦後2番目の長さとなる景気拡大局面が続いていたが、プロジェクト初年度の平成30年度には、米中貿易摩擦などを背景として、世界経済が減速し、国内でも景気後退局面に入った。
さらに翌令和元年度には新型コロナウイルス感染症が発生。全国的な緊急事態宣言が出されると、社会・経済活動への影響が拡大し、実質GDP成長率は戦後最大のマイナスに陥るなど、未曾有の危機的な経済環境となった。
プロジェクトにとっても、市場縮小や経済活動の制限によって、企業との共同研究の推進に大きな影響が生じるとともに、連携先企業においてもビジネスモデル構築や販路開拓に大きな支障をきたした。このことによりプロジェクトの事業化の遅れや成果の下振れ要因となった。

プロジェクトの成果と今後の成長へ繋がる変革

プロジェクト期間における厳しい環境変化はあったものの、県内企業と密接に連携して機動的な研究開発に取り組むことで、新製品や新規事業を創出し、製造品出荷額32億円の増と新規雇用52人を創出した。
成果目標の達成状況は各プロジェクトによって異なり、取組前から下地のあったプロジェクトにおいては、事業化の時期が早く、効果も大きかった。一方、基礎研究から開始し技術移転を目指すプロジェクトでは、県内企業との連携構築や用途開発、販路開拓に時間を要し、プロジェクト期間内の事業化に至らないものもあった。
事業化以外の面でも、プロジェクトの取組を通じて、新分野への挑戦や企業誘致が実現したこと、連携先企業の技術力やブランド力向上など体質改善が進んだことも大きな成果であった。このような変革はプロジェクト終了後も新たな成長へ繋がるものと期待できる。
また、プロジェクトは産業技術センターにとっても、技術力の向上、ノウハウの蓄積、知的財産権の取得などが進み、今後の支援能力の向上に繋がった。

(今後の成長へ繋がる変革)

  • 航空機、医療分野等の新分野への挑戦
  • 研究開発型企業の県内への工場進出
  • 工場へのデジタル技術導入による品質管理技術や生産性の向上
  • 下請け型から提案型への体質の変革等
  • 新製品・技術開発による差別化やブランド力の向上
  • 研究開発や販路開拓等を実施するための企業間連携や社内体制の強化

今後の取組

プロジェクト期間中には、脱炭素化やデジタル化等の社会・技術動向の変化が急速に進み、今後、産業構造の大きな変革が見込まれている。県内企業においては、この変革に対応し、これまで以上のスピード感で、独自の技術に基づく競争力のある製品・技術開発へ取り組むことが必要である。
また、ますます深刻化する人手不足への対応も不可欠である。県内企業の雇用維持・拡大のためには、労働生産性を向上するための技術革新や企業体質の変革がより一層求められている。
そこで令和5年度からは、県内企業のニーズに対応し、生産性向上と研究開発力の向上を両輪で進める新規事業に取り組むこととした。これまでのプロジェクトで培った技術力を活かして県内企業の技術進歩を支援し、引き続き地域の所得と雇用の拡大を目指して取り組んで行く。

 
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